しげあんちゃん③

平成7年7月18日より聴診器を使っての発声練習が始まりました。

広告紙の裏に大きく「あ・い・う・え・お」と書き、その横に「あ」「い」「う」「え」「お」のそれぞれの口の形の絵を描きました。マイク代わりの聴診器に大きい声で「あ~」と言いながら絵に描いた口の形を見せました。

まず同じような口の形を作る練習をしていよいよ声を出す練習を始めました。最初は息を吐くだけの「あ~」でした。それを繰り返すうちに声としての「あ~」になって行きました。同じように「い~」、「う~」、「え~」、「お~」の発声練習をしました。

「う」に関しては、いつも軽く口を開けていることが多いためか小さい口を作ることができず、「お」に近い「う」になってしまいます。そのため下の顎を右手で押し上げて小さい口を作る練習を始めました。そうするとどうにか「う~」の音になりました。その後、下の顎に手をやることが「う」の発音をするお互いの合図になりました。

 音を聞くこと、そして聞こえることの喜びが増えて来ました。テレビのイヤフォンを付けてボリュームをいっぱいに上げると、今までにない経験をしているのでしょう、目を大きく開けテレビの音に合わせて頭を前後に動かしたり、母親の方を見たりしていました。

その後、週3日、1時間ずつ発声練習をしました。それからは急速にアイウエオの発声がよくなり、「あ」「い」「う」「え」「お」と聞えるようになりました。

10日後の7月28日には「え、しげあんちゃんが話すようになった?」と遠方から妹さん達が駆けつけました。

しげあんちゃんが「あ~」「い~」「う~」「え~」「お~」と発声するのを見ていた妹さん達が母親のスナヲさんと一緒に、「信じられない、本当にしげんあんちゃん? 自分達が生まれて来て一度もしげあんちゃんがしゃべるのを見たこともなかった、本当にしゃべれるっちゃね~」とみんなで泣きながら見ていました。 

スナヲさんが「そう言えば、飛行機が上を通る時に空を見よったわ、もしかしたら飛行機の音が聞こえよったとやろか」といろいろと過去の出来事を思い出しながら泣いておられました。

しげあんちゃんの新しい人生の始まりでした。