60年以上喋らなかった茂雄さん(しげあんちゃん)65歳が、文字を見て発音する生活が始まりました。母親のスナヲさん87歳も元気です。私の子供たちが使っていた積み木を持ち寄り、積み木に書いてある50音を読みながら並べて行くという練習を始めました。毎週3回訪問し1時間ずつ練習を続けました。平成9年4月、山積みにした積み木を一つ一つ取りながら積み木に書かれている文字を読み、定位置に並べることができるようになりました。
7月になると「こ~ん~に~ち~わ」「さ~よ~う~な~ら」と発音できるようになりました。玄関に「こんにちわ」「さようなら」の文字を大きく書き、毎回玄関で挨拶するようにしました。
(本来「こんにちは」ですが、発音上「こんにちわ」と教えました)
その後も発語訓練を続け50音の発音も安定してきました。文字を見て発音することは順調にできるようになりましたが、50音を聞き取ることはできませんでした。しかし発語も多くなり、表情も豊かになり、それなりに家族内での会話は多くなりました。新聞を見て自分の好きなテレビ番組があるかを確認できるようになりました。
平成10年より気管支炎、関節痛、転倒が徐々に多くなりました。在宅で点滴治療をすることも多くなりました。徐々に体力も低下し好きなテレビを観て過ごすことが多くなりました。元気なスナヲさんは息子のその姿を見て少しでも外を歩くようにと右足で床ドンをして怒ります。その度にしぶしぶと散歩に出ては転んで帰って来ます。それから9年経った平成19年(2007年)5月8日、同じようにしぶしぶ散歩に出た茂雄さん75歳は、自宅前の路上で前方に転倒し額に大けがをします。顔中血だらけになった茂雄さんを見た家族は大騒ぎです。
97歳のスナヲさんはビックリして動けません。 妹さんから日高医院に「しげあんちゃんが、しげあんちゃんが、倒れて顔中血だらけになっている・・」と慌てた様子で電話連絡がありました。