しげあんちゃん⑩

緊急で往診してみると、意識はしっかりされていますが額中央部に径3cm程の皮膚欠損があり、皮膚移植などの専門の治療が必要な状況でした。総合病院の形成外科を紹介し受診してもらいました。結果は、皮膚移植はせずに時間をかけてゆっくり治すことになりました。妹さんのご主人の正勝さんが通院の送り迎えをすることになりました。これまで外出することが少なかった茂雄さんにとって市内の大きな病院に定期的に通院することは、新しい空気に触れ、若い看護婦さん達との会話も増え、笑顔も多くなり、今までにない人生の始まりでした。

病院からの帰りには、正勝さんとうどんを食べたり、パチンコ屋に行ったりと頭を怪我したことにより新たな体験が多くなりました。家に帰ると、毎回スナヲさんや妹さんに今日の出来事を、口や手を一生懸命動かして伝えていました。お風呂はいつも正勝さんと一緒に入るようになりました。お風呂からはいつも笑い声が溢れていました。

平成20年(2008年)76歳になってからデイサービスに通うようになりました。若い介護士や言語療法士によるリハビリを毎回楽しんで過ごしていました。小学生が学校から帰り母親に今日の出来事を報告するかのように、毎回幸せそうな顔で家族に接していました。発語訓練で有効な会話は実現できませんでしたが、発語訓練を通して幸せな時間が生まれました。

これまで文字を見て声を出していましたが、白内障による視力低下後、文字と発語がなかなかつながらなくなって来ました。またこれまで気管支炎を繰り返して来ましたが、肺炎で入院することも多くなりました。それでも正勝さんはいつもそばにいました。