昭和33年父が診療所を開業したころ私は3歳でした。
その頃から地域のおばちゃんたちに「しろちゃん」と愛称で呼ばれていました。
小学生になり「大きくなったら何になると」ときかれると、「お医者さんになる」と答えていました。
医者となり40歳で帰って来て久しぶりに当時のおばちゃんたちに会うと、やはり「しろちゃん」と呼んでくれます。
そのおばちゃんたちも年をとり、物忘れが進みました。
夜11時頃自宅に帰ろうと車を走らせると、交差点に知っているおばちゃんが寒い中立っています。車を停めて声を掛けると、「あっ しろちゃん! よかった! 息子が帰って来んとよ・・」と話します。
「必ず帰ってくるよ、寒いから家に帰って待とうか・・」と言って家まで一緒に歩いて帰りました。そのおばちゃんはもういません。
秋深まった夕方に散歩に行くと、買い物に行く知っているおばちゃんが「知らんおじさんが来た」と物陰に隠れます。近づくと「あら、しろちゃん」と言います。
「今度見かけたら、しろちゃんと分かるように遠くからシェーッてするから安心して!」と言うと、「ウンウン、わかった」と言います。
その後、シェーッてすると、しろちゃんと分かったのか遠くで笑っています。
そのおばちゃんは施設の職員さんと一緒に来院されます。職員さんたちが「ほら、しろちゃんよ、分かる?」と本人に話しかけます。
「どっかで見たことがあるけど、だれかなあ」と少し微笑みながら分からない様子です。
65年も前からそれぞれのおばちゃんの脳裏に「しろちゃん」が残っていたことを光栄に思います。
もう忘れてもいいですよ。「しろちゃん」を60年以上も覚えて頂きありがとうございました。おばちゃんたちのことを忘れませんよ。