津波対策の避難訓練を行ってみて判った課題 ~現実を知りましょう~

2017年3月18日 宮崎市熊野・島山地区で津波避難訓練を行いました。
複合型津波避難施設に約30人の高齢者が集まりました。

 

 

今回は、日中若い人が仕事でいない、男性もいない、中高年の女性しかいないという状況を想定して行いました。

 

 

まず施設内で、「リーフ」という名の布担架を使ってベッドから車イスへの移乗訓練をしました。結果はまずまずでした。

 


 

次に実際の家をお借りして、寝たきりの高齢者を自宅のベッドから外の車イスに、布担架を使って避難させる訓練を行いました。

 

 

元気な女性4人による布担架のセッティングと搬送、そして屋外の女性2人の介助で無事に車イスまで移乗できました。

 


 

しかし、車イス移乗後の車イスの移動に心配な点がありました。

 

 

元気な女性が先を急いで車イスを前向きに押しますが、側溝(そっこう)や段差で前方に転倒する危険性を感じました。地震後の不安定な場所を移動する場合は後ろ向きで車イスを移動した方が安全です。

 


 

次に、つなぎの服の両腕両足にファスナーを付け、更に両肩から腰、両足にベルトを縫い付けどこでも持てるように改良した「搬送用つなぎ」を使って避難訓練をしました。

 

 

ファスナーを閉める時に高齢の女性たちが老眼であったため、素早くファスナーを合わせることが出来ませんでした。改良が必要だと感じます。
女性の皆さんは、つなぎを着た時の姿が簡単に想像できたために、ほとんど練習をしていないにも関わらずスムーズに装着ができ搬送も上手く行きました。

 

 

車イス移乗も上手く行きましたが、やはり前向きに車イスを勢い良く押して避難する場面は、先程と同じく転倒の危険性を感じます。アスファルトまでは後ろ向きで車イスを移動した方が安全と思われます。

 


 

次に「HIDAKAリーフキャリー」という名の背負子を使っての避難訓練を行いました。

 

 

一度施設内で練習をしましたが、初めて目にする搬送用具はどのように扱ってよいのかが分からず戸惑ってしまい装着に時間を要しました。

 

 

どうにか背負って玄関に向かいますが、

 

 

車イスを玄関の床に真正面にくっつける形で置いたため、担いでいる人が床にしゃがむ形になり、結果として後ろ向きに転倒してしまいました。
一旦玄関の土間に下りて、後ろ向きで高齢者を車イスに座らせる必要がありました。

全く訓練をしていない状況で新しい避難用具を使うことは、緊急時には役に立たないことを実感させられました。

 

 

更に、玄関から車イスで出る時にやはり前向きで出る行動を目にしました。

 

 

車イスが前方に45度傾き車イスに乗っている高齢者が前に転倒しそうな状況を確認しました。
地震発生時、人が少ない状況で前方に転倒すると、顔面または前頭部を打撲し意識を失うことがあります。急ぐだけでなく、車イスの操作法をもう一度確認しておく必要があります。

 


 

避難タワーに着いてから実際に階段を上る訓練をしました。
歩くことはできますが階段を上るのが困難な高齢男性を介助して上る訓練を行いました。

男性の股に布担架を半分ねじってオムツの様に通し、その布担架を上に抱えることにより本人の足の負担を軽減して素早く階段を上がる訓練です。

 

 

女性が両脇から抱えるが本人の足の負担を軽減できず途中で休む必要がありました。更に3人横並びになるために後ろの人が通れなくなります。

結果として多くの人々が有効に避難タワーに避難できなくなりました。これも何度も訓練が必要だと感じました。しかし現実は、60kg以上の人を女性2人が介助して階段を上るのは極めて困難であることを確認しました。やはり男性の力が必要です。

 

 

次に布担架に女性を寝かせて6人で階段を上りました。6人が力を合わせることは女性でも有効でした。普通の女性が上る速さで3階まで上ることができました。

 

 

次にベルトを沢山縫い付けたつなぎ服を使っての階段上り訓練を行いました。

 

 

同じく6人で搬送しましたが、担がれる人もつなぎの中にしっかり納まっていることもあり、皆の力がしっかりまとまり小走りで登れる状況でした。

 


 

以上より、避難用に改良したつなぎを使った避難が一番有効だったという結果となりました。

 

 

一番遅かったのは、自分で歩ける高齢者を介助して避難するケースでした。
自分で歩けても、高齢者は車イスを使って移動し、階段は布担架などを使い、寝かせた状態で女性5~6人にて運ぶのが現実的であると思われます。

 


まとめ

避難訓練をほとんどしておらず、女性ばかりしか居ない状況で寝たきりの人々を避難タワーに避難させることはほぼ不可能であるとの結論です。
更に、自分で歩けるが歩くのが遅い高齢者の方が、寝たきりの人々よりも取り残されるリスクが大きく、助かる率が低いのではという意外な結果でした。

今後の対策について

  • 素早い避難には男性の力がいる。特に若い男性の力を借りる必要があります。
  • 初めて使っても、慌てる状況でも、分かりやすい避難用具を開発することが重要です。
  • とにかく避難訓練を繰り返すことが基本です。
  • 日常において地域のコミュニケーションを深めておくことが求められます。