お知らせ

しげあんちゃん⑧

2019年6月17日

2月からはひらがなを書く練習を始めました。2日後には自分でひらがなの書き取りをしていました。茂雄さんと一緒に「つくえ」「いす」「かがみ」「はしら」などメモ紙に文字を書き貼り付けて回りました。自分で50音を書き、自分で発音する行動が見られるようになりました。発音もきれいになりつつあります。

茂雄さんの自宅周辺は、早期水稲と言って3月末から4月初めに田植えを早めに行います。茂雄さんの妹さんの夫正勝さんも田植えの作業をされます。
そのこともあり、「田植え」を「た~う~え」と教えました。茂雄さんは子供の頃から田植えをして来たこともあり、直ぐに「た~う~え」と発音しておぼえました。

5月に入り下の1本だけの前歯が抜けました。5月8日近所の青山歯科に茂雄さんを連れて行きました。びっくりしない様に身振り手振りで本人に説明し、入れ歯を作るための型取りをしました。歯科の青山先生には「こんな地域医療もあるのか」と関心を示され積極的に協力して頂きました。5月17日上下の入れ歯が完成しました。最初は慣れないた発音する度に上の入れ歯が落ち、これまで練習して来た発音が出来ませんでした。タフグリップなど粘着剤を付けるとしっかり発音できるようになりました。その結果、まだ完全ではありませんが「さ行」の音が以前よりきれいになりました。しかし、これまで練習して来た他の音が上手く発音できないことも分かりました。それも時間と共に改善が見られました。

7月には赤の色を見て「あ~か」と発音し、青の色を見て「あ~お」と発音しました。8月には、以前からある左肩の痛みを「いたい」と文字と共に教えました。
意味を理解して、「いたい」と発音できました。更に自分の名前「しげお」の発音の練習をしました。8月28日より「おかあさん」の発声練習を始めました。最初は、「お、か、あ、さ、ん」でしたが、徐々に「お~か~あ~さ~ん」になりました。10月2日茂雄さん64歳は母スナヲさん88歳に向かって、文字を見ずに「お~か~あ~さ~ん」と言えました。スナヲさんは涙ながらに「ようここまで来たね、先生、ありがとうございます、茂雄がこれ以上上手にしゃべれなくても満足です」と挨拶されました。胸が熱くなる思いでした。その後も茂雄さんが「お~か~あ~さ~ん」と発音するとスナヲさんが顔を出すと言う練習を繰り返しました。10月30日から「おかあさん」の文字の書き取りを始めました。

11月に入ると茂雄さんの風邪様症状が頻発するようになり、注射をしたり内服治療をしたりすることが多くなりました。

12月11日これまで未完成だった「か行」がしっかり発音できるようになり、これで50音全部の発音が完成しました。早速青山歯科に行き、待合室で青山先生を前につい大きな声で「50音全ての発音が完成しましたあ!」と報告しました。突然の報告に青山先生も一瞬何の報告かと驚かれ、茂雄さんの入れ歯を作ったことで50音の発音が完成したと分かり、改めて「おめでとうございます!」と仕事の手を止めてマスクのまま挨拶されました。

青山先生には申し訳ないと思いながらも、60年間しゃべらなかった人が50音全て発音できるようになった感動を誰かに大きい声でしゃべらずにはおれませんでした。

帰りの車の中で「やった~あ!」と一人で叫びました。